蜜柑のプロジェクトverβ

シホンシュギ、ヒャハー

山口定、1979=2006『ファシズム』岩波現代文庫

ファシズム (岩波現代文庫)

ファシズム (岩波現代文庫)


前年なくなられた御大のファシズム研究。

■■分析手法

(1)総力戦(もしくは激烈な恐慌)の過重負荷による国家と社会の全面的混乱、
(2)敗戦(ドイツ)もしくは「片輪の勝利」(イタリア)のなかで露呈することになった後発帝国主義における内外の諸矛盾の特有の歴史的集積(それは、国内における「アンバランスな近代化」に起因する独特の緊張と、対外的発展の可能性の閉塞による危機意識の昂進の二つに集約できる)、
(3)民衆の中途半端な解放を意味する「民主主義のひ弱さ」
(4)ロシア革命の衝撃によって触発され、以上の三条件によってその帰趨を規定されることになった「革命的危機」の発生、
の四つである。p13

しかしそれでもなお、前記四条件のなかでも、とりわけ第二の条件こそが、最終的には世界史的規模でのファシスト同盟(日独伊三国同盟)の結成へと状況を収斂させる基本的な条件であったことが確認されるべきである。p15

(1)まず第一に必要なことは、ファシズムとは何か、という包括的な問いの前に、運動、思想、体制という三つの問題のレベルを区別することである。
つまり、まず
①政治運動としてのファシズムの特性は?
②思想としてのファシズムの特性は?
そして、
③政治体制としてのファシズムの特性は?と問うべきなのである。
(2)第二に、近年のファシズム研究の蓄積のなかで、およそファシズムについて論じる場合には、少なくとも次の四つの基本的な問題領域があることが、広く承認されるようになってきている。
それは、
ファシズム発生の前提条件の分析、
ファシズムの社会的基礎もしくは大衆的基盤の分析、
ファシズムの果す「社会的機能」の分析、
ファシズムが追求した「究極目標」(Telos)の解明。
(3)そして第三に、ファシズムと一口にいっても、それは、その誕生から死滅にいたるまでの展開のなかで、識別できるさまざまの局面をもっているのであり、…まず次の六つの局面を区別し、そのうえでファシズムの全体像と歴史のなかでその位置を確認し、その「本質」が検討されるという手続きがとられる必要がある。
その六つの局面とは、まず
①誕生、
②大衆運動への発展、
③政権掌握、
④体制の地固め、
⑤体制の爛熟、
⑥崩壊過程である。
(そして、この六つの局面は、①②③からなる「運動」の段階と、④⑤⑥からなる「体制」の段階に二分して、単純化することもできる。)pp18-19